★新型インフルエンザと日本人(続き)

機長のアナウンスは、
勝手に“良い知らせ”から始まった。


「機内で具合が悪くなり病院で検査を受けた乗客は、新型インフルエンザではなかった、ということが判明しました」。機内は、喜びの拍手や歓声が沸き起こることはありませんが、ホッとした息遣いがところどころから漏れてきました。そして、束の間のホッとした雰囲気を打ち破るかのように、続けて“悪い知らせ”が知らされました。


「機長をはじめとするクルー全員がバックアップのクルーと交代します。また、機内をフレッシュにするため、または、他の機体と交換するため、(そのために)乗客の皆さんには、いったん空港内へ戻っていただきます。(Thank you←いつものアレ)」という内容。


最悪の事態まで考えていたので、このアナウンスへ不満をもらす者は、意外にもほとんどいませんでした。


フライトアテンダントから8ドル分のミールクーポンを受け取り(空港内のどのレストラン・カフェでも使用できる)、手荷物だけ持って、数時間前に待っていたGATEのロビーに再び戻った。次は、どのゲートに何時に戻ってくればいいのか。機内に預けてある荷物は大丈夫なのか。果たして、本当に飛行機は飛んでくれるのか。


乗客の中には、実は、先ほどのアナウンスは嘘で、すでに機長がインフルエンザに感染してしまったため(このままフライトすると途中で発熱する危険があるため)、クルーを交代させたんだ。乗客も全員、すでに感染してしまっているんだ。なんていうことを言うヤツもいた。こういう輩は、一人で海を泳いで帰ってもらいたい。


結局、2時間後に同じゲートに集合することが確認できたので、ミールクーポンを持って近くのダイナーへ入った。もうビールでも飲むしかねーだろー、と思ったが、今後のことが、あまりに見えないので、フツーに軽食をとることにした。


何かあったら困るので、早めに集合場所に戻る。
すでに多くの人が戻っていたが、それは日本に到着できた場合の乗り継ぎ便についてコンチネンタルのスタッフへ問い合わせ(正確にはクレーム)をするためだった。


ウチは東京なので、深夜でも何でも到着さえしてくれればいいのですが
成田から大阪や名古屋へ乗り継いで行く人たちにとっては大問題。
横で聞いていると、今回のような理由の場合は航空会社には責任がないためクレームは受け付けないらしい。ここらへんはコンチネンタルもかなり強気の対応をしていた。


こうした多少の混乱はあったものの、予定通りの時間に再び搭乗して、16時30分、無事に離陸。当初の予定よりも5時間遅れということになる。


その後は、いつもと変わらぬ“快適な空の旅(?)”で、予定よりも30分早く日本へ到着することが出来た(まさか、遅れた分、速度を上げたわけではないと思うが)。


着陸後、ニュースで報道されているあの機内検疫がありましたが、実に、あっけないもので15分もかからなかったと思う。その後の入国審査も荷物受取りも、いつも以上にスムーズで30分後にはリムジンバスに乗っていた。


ニューアークでの騒動があったので、日本入国では、いったい何時間かかるのだろうと半分諦めていたが、現実は、こんなもんです。


旅慣れていない人には、これも“災難”だったかもしれませんが、5時間遅れるという実害はあったものの、 (強がりとかでなく)私にとっては、ここまでは、旅や旅行には付きモノのエピソードのひとつくらいに感じました。そして実際に無駄になった5時間以上に、得るもの、考えさせられるものがたくさんありました。




中でも、以下の二つは、自分に対する戒めも含めて心底考えさせられました。




新型インフルエンザは、現時点でも現在進行形で起こっている問題です。私が日本に帰国した5月10日は、ちょうど日本で初の感染者が出た頃でした。今では、弱毒性のウイルスであると判明していますが、あの頃は、極端なほど過敏・過剰な対応で、帰国者は、(極端に言ったら)まるで犯罪者が危険人物のような扱いのように感じたし(帰国後も保健所からケータイに電話があり、体調などを追跡チェックされた)、咳などした時には、いったいどこに連行されてしまうのだろうと思いました。


考えさせられたこと?
ニューアークの機内で発熱した乗客は新型インフルエンザではありませんでした。しかし、他の乗客やスタッフなどに多大な迷惑をかけたことは紛れもない事実です。「なんで熱があるのに(飛行機に)乗っちゃうのかなぁ」という非難の声もたくさんありました。しかし、(病気の症状に寄ると思いますが)自分が、もし帰国日に、ちょっと体調が悪い、少し咳が出る、少し喉が痛い、というだけで帰国便をキャンセルする判断ができるかどうか。結論から言うと、こういう事態の中では、絶対にキャンセルしなければいけないのだと思う。その判断ができない人は、海外旅行に出かけてはいけないし、他人のことをまったく考えない自己中心の人間だと思われてもしかたない。果たして、自分は、そうした判断ができる人間だろうか。自分の体調管理なんて当たり前ですが、たまたま一緒になる乗客の体調までコントロールすることは誰もできません。交通事故よりもどうにもなりません。一人一人の自覚と責任に頼るしかない。


考えさせられたこと?
日本の水際対策って何なの?この国際化が進んだ時代に自国だけ大丈夫ならそれでいいの(江戸幕府鎖国じゃないんだから)?帰国者を(科学的根拠もなく、証拠・裏づけも十分でないのに)とにかく隔離すればいいの?こういう国の対応や判断は、ただ国民を不安にせさ、経済を麻痺させ、マスク・メーカーを潤わせるだけだということがなぜわからないのだろう。単なるポーズのような(マスコミ対策のような)対応ではなく、もっと本質的な対策・対応を本気でやっていかなければ、今年の秋口には、大変なことになってしまう気がします・・・・。


先日ニュースでこんな話を耳にしました。ニューヨークから帰国して感染が発覚した女子高生は、(帰国後)1度も学校に登校していないのに、この学校は一斉休校になったとのこと。そんなの何の科学的根拠もない。しかし、そうしなければ世間が許さない。それが島国日本の本性です。もし、私の乗ったCO9便で感染者が出たら、きっと元気いっぱいな私は数日間隔離されていたのだと思います。そして、私が1度も出社していないウチの会社がマスコミの餌食になり、きっと営業活動を数日停止しなければならなくなったでしょう。自分にはまったく責任がなくても、そんな大変なことが起きるか、起きないか、なんてホントに紙一重のこと。ウイルスよりも何よりも、こういう日本が本気で異常に思えました。